2020年7月22日水曜日

水の子供 第12章 エピローグ

カイル発見後から、数ヶ月

カイルは、湖の岩と岩の間の洞穴のような所で見つかった。

消耗はしていたが、命に別状はなかった。

アマンダとレニーは、コテージを売り払い、二度とあの湖に行かなかった。

マイケルは、急変し、クリスに看取られ静かに息を引き取った。




水の子供 第11章

警察隊達は、一斉に森の中の捜査をやめ、皆湖の方に向かった。
「一体何が合ったんですか?」レニーは急ぐ警官の一人の腕を掴んで言った。
「詳しい事は、、」
「この期に及んで、情報を隠さないで!」アマンダの声は、叫びに近かった。

「いたぞ!」

ダイバーの一人が、男の子を抱えて浜に急いで向かってきた。

すぐに、待機していた救急隊がその子の息を確かめた。

「ああ!カイルだわ!あなた!」アマンダとレニーは、砂に足を取られながら、子供の方に駆けよって行った。

「息があるぞ!」大きな歓声が響き渡った。



水の子供 第10章

「まぁ、パパ、こんなに絵が上手だった?」
クリスは、小さなテーブルの上に置いてあったスケッチブックを手に取った。
「湖の絵ね?それと男の子?パパの子供時代?」
それを聞くまで上の空だったマイケルは、急に声を出した。
「お、お、おと、こ、、こ、こど、も、」
彼必死に絵を指差した。
「パパの知っている子?」マイケルは、うなずいた。「な、な、み、きけん!」「き、きけ、ん!」彼は激しく絵を叩いた。
「分かったわ!落ち着いてパパ!」こういう時は、看護師を呼んで下さいと、施設から言われていた。

クリスは、看護師への呼び出しベルを急いで押した。
看護師は、すぐに来てくれた。

「あらあら、ちょっと興奮してしまったのね。貴方に会えて、よっぽど嬉しかったのかしら?」
看護師は、手慣れたように、マイケルの腕に注射をした。「これで、しばらく落ち着くはずよ」
「この絵を見て、こうなったのよ」

「まあ、、あら?」
「何です?」クリスは、心配になった。

「今ニュースで、湖の近くで、行方不明になった子供の話で持ちきりだったものだから」
「父は、子供が危ないとか言っていましたが、、」
「待っていて。警察に連絡するわ、、」

水の子供 第9章

「どうなっているんだ?訳が分からない、、あいつは、何もできないはずだよ」

ボブは、母親を見つめた。
「母さん、何か知っているのか?」
彼女は、頭を横に強く振った。
「あの子には、カレンが亡くなった後以来、会っていないよ。」

ボブは苦い子供時代を、思い出していた。

双子だったまだ幼かったボブとマイケルは、たわいない事で湖畔で喧嘩を始めた。

母親が二人を引き離そうと走り寄った時は、既に遅かった。

マイケルは、湖で数分間溺れていた。
病院で目覚めた時には、元のやんちゃだった子供は、わずかに歪んだ口から、漏れる言葉しか発っせない小さな赤子になっていた。だが、リハビリが効をそうじて何とか杖をついて歩けるまでになったが、知能は、溺れた時と同じだった。

ボブは、母親とマイケルを罪悪感から、自分の家に引き取り一緒に住んでいた。

そして、妻のカレンと出会った。

喧嘩をすると時々激昂するボブに対して、穏やかなマイケルに情が、移るのは、時間の問題だった。

だが、今回の事件とマイケルが何の関係があるのか全く理解ができなかった。





水の子供 第8章

もうすぐ日暮れになる。。

警察も、犬達も何も見つけられないで、1日の捜索が終わりそうだった。

「カイル!」アマンダは1日中、子供の名前を、張り上げていたので、段々かすれてきた。夫のレニーも、同じだった。

アマンダは、散々涙を流して来たので、目が充血していた。

「奥さん、旦那さん、申し訳ありません。大分暗くなってきたので、今日の捜索は、打ち切らせていただきます」警官の一人が、本当に申し訳なさそうに二人に言った。

アマンダは、その場で倒れそうになり、レニーに掴まった。

「仕方ないよ。アマンダ。また明日頑張って探そう」
「あなた、まさか」
「もう暗い。僕達が行方不明になったら、カイルが戻ってきたら、どうなる?」レニーは、アマンダの文句を撥ね付けた。




水の子供 第7章

カレンは血だらけだった。運良く救急車が来たとしても、病院まで持つかどうか、分からなかった。
「ママ!しっかりして!」カレンは、握っていた写真をクリスに押し付けた。
そして消えいるような声で「ごめんなさい」と言った。「何が?ママは何も悪くないわ!」カレンは力を振り絞ってクリスに言った。「これはマイケル。本当のあなたのお父さん、、」「えっ?何?どういう事?ママ!ママ!」だが、カレンはもうこと切れていた。
遠くから、救急車のサイレンの音がしていたが、時が止まってしまったようだった。

クリスは、それ以来、ずっと本当の父親だというマイケルの事を調べてきた。

祖母に写真を突き付けたが、彼女は頑なに否定した。
「クリス、その人が生きているはずはないわ。死産だったから、、」

しかし、カレンから渡された写真には、今まで父親と信じていたボブとほとんどそっくりだったが、その男は松葉杖をついて、カレンと笑っていた。クリスは、祖母に写真を見せたが、「似ているだけでしょう?」ととりつく島もなかった。

ボブには、自分が母からこの写真を持っている事を内緒にしていた。





水の子供 第6章

車椅子に乗っていた男が、首を曲げたまま、苦しそうにクリスの方を振り向いた。

そこには、父親のボブそっくりだが、様々な障害を負っている男がいた。

手や首を震わしながら、一生懸命口を開いて声を発しようと試みるも、曲がった口からは、「んぐっ、、ク、ク、リ、ス」と絞りとられるように発せられた。

クリスは彼の首に腕を回した。
「ええ、パパ、マイケル、私は元気よ。」

担当看護師が食事トレーを持って、部屋に入ってきた。
「今日は、よく散歩したのですよ」背が高くがっしりした看護師は、ニコッとクリスに微笑んだ。

「良かったわね、パパ、、」
クリスは、一瞬マイケルが笑ったように見えたが、顔の筋肉がひきつっただけかもしれなかった。

家の誰も、クリスがここに来ている事は、知らなかった。クリスは、いつも"友達と勉強している"と言っていた。

ほんの1年前まで、クリスは亡くなった母親から、本当の自分の父親がマイケルだと聞くまで、友達と買い物に行ったりしていた。
自分が無邪気だった日々が、あっという間に、過去のものになってしまった。

クリスは14才になっていた。

彼女が自分の本当の父親を見つけたのは、ほんの偶然だった。

13才の夏まで、クリス達は、ボブと母親のカレンと湖畔でキャンプするのが、通例だった。だが、13才のティーンには、親への関心がなく、嫌々ついて行かされた。

ある日、テントの裏で、両親がいさかいを起こしていた。クリスは、「またか」と、いつもの様に彼らの喧嘩が収まるのを待った。

しばらくすると、カレンがキャンプ用の椅子に腰掛け、泣き出した。
「ママ?大丈夫?」クリスは、心配になった。というのは、母親は、めったに涙を見せないからだ。

ボブがイライラしたように、カレンが握っている何かを彼女から取り上げようとした。
「そんな写真、捨てちまえ!かせ!燃やしてやる!」
「止めて!」カレンは必死に抵抗した。
が、しかし、合体が大男のボブに勝てるはずもなく、カレンはボブにぶっ飛ばされた。
クリスは、父親が母親に暴力を振るうのを初めて見た。
母親は地面にあった大きな石に頭をぶつけた。
「ママ!」どうしよう!カレンの頭から、見た事もない量の血がどくどくと出ていた。

「カレン!ああ、何て事だ!」ボブは、着ていたシャツを脱ぐと、カレンの頭の血が出ている箇所を押し付けた。
「クリス、押さえていてくれ!」

ここは、携帯の電波が届かないので、住民達は、無線を持っている。

ボブは、無線に向かって吠えるように、救急車を依頼した。












水の子供 第5章

その若い警官が、見せてくれた写真には、どこかの家族が写っていた。
「まさか!」
アマンダは、写真に写っている少年を指差した。
「どうした?アマンダ?」トンプソンと話していたレニーが、急いでアマンダの傍に駆けよって来た。
アマンダは、写真を指差すのを繰り返し、誰ともなく「この子よ!この子よ!」と叫んだ。 

「奥さん、本当にこの子ですか?」若い警官は、おずおずと彼女に訊いた。
「間違いないわ!どこの子なの?きっとカイルと一緒だわ!」

だがその警官は、アマンダに答える代わりに、トンプソンと二人っ切りで小さな声で、何かを話していた。

やがて、トンプソンが、アマンダとレニーに「お二人に来ていただきたい所があるのですが、、」と、言ってパトカーの後部座席のドアを開けた。

「一体、どういう事なんだ?捜索はどうなる?!」レニーは、少し警戒した。
トンプソンは、落ち着いていた。
「日暮れまで、捜索し続けます。それよりも、お二人に是非来ていただきたい所があるので、ご協力願います。」

アマンダは、捜索隊が入って行った森を眺めた。「レニー、あなた、行きましょう」レニーは、仕方なく妻に従ってパトカーに乗り込んだ。

大した距離もいかない所に、古びた小さな家が建っていた。

トンプソンは、その家の前にパトカーを止めた。
「この家にカイルがいるの?」アマンダは、後部座席から、トンプソンに言った。
トンプソンは、一瞬眉目にシワを寄せて言った。「しばらく、ここでお待ち下さい」
「いえ、一緒に行くわ!」アマンダは、もう外に出ていた。
レニーもアマンダの後を急いで追った。
「わかりました。ただ私が中の住人と話すまでは、私の後ろにいて下さい。いいですか?」
アマンダとレニーは、うなずいた。

トンプソンは、こざっぱりとした玄関のベルを押した。

カイルは、この家にいるに違いないわ!と、アマンダは確信していた。

玄関が開き、中から、老婦人がびっこを引きながら、出てきた。
「まあ!トンプソン保安官!久しぶりじゃない?さあ、入って、ちょうどお茶にしようと思っていたのよ。」

トンプソンは、気のいい警官のお馴染みの挨拶をしていた。そして、自分の携帯を取り出すと、写真を老婦人に見せた。
「まあ!息子のボブだわ。でも、子供の頃の写真よ?」
「息子さんはどこにお住まいですか?」
老婦人は笑った。
「主人を亡くして、あの子ここに戻って来てくれましてね。屋根裏部屋にいますけれど、呼んできますか?」
「ええ、是非ともお願いします」
「ボブ!お客様よ!」

老婦人は、息子の名前を呼んだ。
「何だい?母さん今忙しいのだけど?」
「パソコンがどうのこうのとか、最近の機械は分からなくてね、、」
「トンプソン保安官が、あなたの話を聞きたいといらしているのよ」

ドアの奥から、ドスドス音がして、背の高い男が出てきた。
写真の子供の面影があるが、今は立派な大人の男だった。

トンプソンは、写真を彼に見せた。
「やぁ、懐かしいなぁ!子供の頃家族で釣りをした時の写真ですよ。これがどうかしたのですか?」
「失礼ですが、お子さんは?」
「ええ、亡くなった女房との間に娘が一人います」

ボブは、「ちょっと待ってくれ、一体どうしたっていうんだ?一人娘はシカゴの大学の寮にいるが、、」
トンプソンは、当たり障りのないようにうわべだけ、アマンダとレニーの子供が行方不明になったことだけボブと母親に話した。
「行方不明になった母親が出会ったという男の子が、この写真の子に、そっくりだったそうです」
「分からないなぁ。。それは、確かに俺の子供の頃の写真だけど?」

「ご兄弟はいますか?」
ボブは、首を振った。
「一人っ子でね」
「そうですか、、」
トンプソンは、礼を言いアマンダ達の所に戻って来た。
「それで?どうなったのですか?」

ボブの娘クリスは、介護施設の受付の前に座っていた。面会者のサインをいつも通りにすると、目指す患者がいる部屋に入って行った。
「私よ。パパ」







水の子供 第4章

その夜アマンダとレニーは、雑貨屋の近くの小さなB&Bに泊まった。

B&Bの女主人は、二人の為に、軽食を作ってくれた。
「アマンダ、力をつけて、カイルを探そう」
「ええ、そうね、、」アマンダは、サンドイッチをつまんだ。正直全く食欲などなかった。でも、とにかく力をつけよう。

翌朝には、警官達が数匹の犬を連れてやって来た。

アマンダは、彼らを先頭して、カイルと少年を見失った場所に案内した。

捜索は、騒々しく始まった。

警官達の半分とレニーは湖畔を、後の半分とアマンダは、森の中へと捜索を開始した。

「カイル!」
「カイルー!どこなの!」
アマンダは、自分達が借りたコテージの周りしか森の中をハイキングした事はなく、いつもレニーが一緒だった。

何て深い森なのだろう!アマンダのシャツの袖が、木々の枝に度々引っ掛かった。

数時間しても、何も反応もなかった。

警官達と犬達は、一旦休憩した。

湖畔の方も同じらしく、レニーが憔悴仕切った暗い顔をしていた。

「何で子供から、目を離したんだ?」レニーは、アマンダにイライラをぶつけた。
「ほんの一瞬だわ!」
「ほんの一瞬が命とりになるって、分からないのか?!」
トンプソンが二人の間に急いで割り込んだ。

「誰のせいでもないですよ!二人とも、落ち着いてください!」
と、一人の若い警官がトンプソンに近寄って来た。
「保安官、少しお話が、、」
「失礼」トンプソンは、その若い警官と、アマンダとレニーから離れた。

「実は、父が担当していたケースで思い出した事がありまして、、」
「何なの?」
「あの奥さんに、私から直接訊いてもいいでしょうか?」

「奥さん、途中で見つけた少年ですが、どこの子だったか言っていましたか?」25才もいっていないだろう、警察学校出たてのような若い男性警官が、アマンダに訊いた。
アマンダは首を振った。
「知らないわ。何も話さない子だったから、、」と、その警官は奇妙な目付きをしてアマンダを見つめた。
そして無線で何かコードのようなものを発して連絡した。

警官は、携帯で、写真を送ってもらった。そしてそれを、アマンダに見せた。
アマンダは驚きの余り、息を飲んだ!
「そうです!この子です!出会ったのは!どうして判ったのですか?」
「あぁ、、」と言って、その警官は顔を撫でた。
「その子がどうかしたんですか?」レニーは、警官の腕に手を置いて、彼を振り返えさせた。









水の子供 第3章

トンプソンは、無線で色々な指示をしていた。「ええ、規則は分かっています。ただこちらは、何せ広い田舎なもので、早く動かないと、後で大変な事になる可能性が大ですよ。」きっとどこかのお偉いさんと、話しているのだろう。彼女は、イライラしながらも根気強く応対していた。度々彼女は、赤毛のショートヘアーの前髪をかきあげていた。

やっと通信が終わったようで、トンプソンは、アマンダに「もう暗くなって来ているので、明日朝からお子さんを探しましょう」と言った。

「そんな!明日なんて、遅すぎるわ!」

「ええ。すみません。奥さん。ところで、今夜お泊まりする所は、ありますか?とにかく、ひと休みしていただきたいのですが?」

「ええ。この反対側にコテージを貸りています。」
理屈では分かっていた。今は、どうにもできないと、、
どうせ一睡もできないのだ。
イライラして待つ程、1分1分経つのが、とても遅くみえた。

そうこうしているうちに、やっと夫のレニーが辿り着いた。
「アマンダ!」
「レニー!」
夫が来てから、アマンダはずっと1人で
抱えてきた恐怖を、やっと誰かと分かちあえる事に、奇妙な安心感が宿った。

夫が、てきぱきとトンプソンと話をしていた。

ふとアマンダは、雑貨屋の窓から見える湖を垣間見た。何もなければ、何て素晴らしく美しい光景だろうか?と、思う程だった。


水の子供 第2章

「カイル!どこなの?戻って来なさい!」空には、一羽の鳥さえも飛んでいなかった。
アマンダはしばらく辺りを探し回った。
嫌な予感がしてならなかった。そうこうしている間に、時間が無駄に過ぎて行き、アマンダは、車に戻り、急いで湖畔の雑貨屋に向かった。

「とにかく、落ち着いて、奥さん」雑貨屋をしている老夫婦の旦那さんが、凄い形相で駆け込んで来たアマンダに、少し警戒しながら言った。
落ち着け?自分の子供がいなくなったのに、どこの親が落ち着いていられるの!

「電話をかしてください!」

老婦人は、黙ってお店の奥を指差した。

「ありがとう」
アマンダは、素早い動作で、奥にある公衆電話に駆け寄った。

「警察です。何がありました?」
実はアマンダは、この数分の警察とのやり取りを余り記憶していない。自分が焦りながら、何度何度も説明しているのに、相手は、まるでロボットのようだった。

やっと一台のパトカーが、アマンダのいる雑貨屋に着いた。

パトカーの中から出てきたのは、アマンダと対して年が変わらなそうな、女性警官だった。

たった一人なの?

「こんにちは、奥さん。トンプソンと言います。まずは、もう一度状況を最初からご説明して下さい。」

何度も説明したわ!アマンダは、手帳を開いて待っているその警官を、睨み付けた。

トンプソンは、そんな人は沢山見てきたと言わんばかりに、肩をすくめた。

「奥さん、お願いします。どこで、お子さんを見失いましたか?」
「どこで?」
アマンダは、自分の記憶を改めて追った。
しかし、頭の中に浮かぶのは、静かで大きな湖だけだった。

「湖の畔よ。あの辺りはどこも同じだわ。」
「何か標識が見えませんでしたか?」
標識!駄目だ!何も浮かばない!
ふとアマンダは、はっと気がついたようにトンプソンに言った。
「夫に、夫に、電話しないと、、」
トンプソンは、優しくアマンダの腕に手をかけた。
「ええ、どうぞ」

「どういう事だ?見失ったって?!」
夫は、まだ会社にいた。今は、電話口の向こうから、アマンダを怒鳴り散らしていた。
レニーは、普段はしごく冷静な人だ。アマンダは彼と口喧嘩する度に、喧嘩の理由より、彼がある意味、冷徹な程冷静なたちにイライラがつのるのだった。

その彼が我を失っている!
「レニー、分からないのよ!ほんの数分の事だったから、、」
とにかく夫は、すぐこちらに向かうと言い、電話を切った。






水の子供 始まり

今年の夏も、アマンダとレニーは、スプリングダップ湖の湖畔にあるコテージで過ごす予定だった。

夫のレニーは、仕事で後から追うとの事で、アマンダは、自分の車の後部座席に、5才になったばかりの息子カイルを乗せて湖畔に平行した道路を走っていた。
片方には湖、もう片方には大きな森林地帯が続いていた。

晴れた日は、まぶしい位の日光が湖の表面に突き刺さり、サングラスが必要だった。

だが今日は、あいにく天気は曇っていて、風も少ないようだった。

元々静かな場所で、そこがアマンダもレニーも気に入っていた。

「ママ!」と、突然カイルが叫んだ。
「何?」アマンダは、一瞬カイルの方を向いた。
「ママ、あそこに男の子がいる!」
「え?」アマンダは、急いでブレーキを踏んで、路肩に車を寄せた。確かにカイルより少し上位の年頃の男の子が、アマンダ達の前を歩いていた。

こんな湖畔の、うら寂しい所に、小さな子供が何で一人でいるのだろうか?と、アマンダは、周りを見渡した。
近くには、その子供と自分達以外誰もいないようだった。

「ねぇあなた、どうしたの?パパやママは?」
少年は、何も答えなかった。

アマンダは、ふと、彼の顔が濡れているのを見て、思わず彼の髪の毛に触れた。
「まぁ!びっしょりじゃない?!待ってて」
アマンダは、車内にある自分の荷物から、タオルを取り出して、それを少年の頭から覆って乾かしてやった。
「お家はどこにあるの?乗せて行ってあげるわ」
少年が指差した先は、湖しかなかった。アマンダは、きっと自分達と同じように、湖畔のどこかのコテージだろうと思った。
「ママー」とカイルが首を振っていた。
「あぁ、そうだった。知らない人の車には乗ってはいけません。だった」
アマンダは、携帯を取り出したが、電波が届いていなかった。

「仕方ないわ。歩きましょう。」
しばらく歩けば、地元の雑貨屋があるはずだった。そこで、警察を呼ぼう。

ふと気がつくと、子供達の声がしなかった。振り向くと、いるはずのカイルと少年がいなかった!

「カイル!」アマンダは慌てて叫んだ。

だが、返ってくるのは圧倒的な森の静けさと、湖からのさざなみの音だけだった。