2020年7月22日水曜日

水の子供 第5章

その若い警官が、見せてくれた写真には、どこかの家族が写っていた。
「まさか!」
アマンダは、写真に写っている少年を指差した。
「どうした?アマンダ?」トンプソンと話していたレニーが、急いでアマンダの傍に駆けよって来た。
アマンダは、写真を指差すのを繰り返し、誰ともなく「この子よ!この子よ!」と叫んだ。 

「奥さん、本当にこの子ですか?」若い警官は、おずおずと彼女に訊いた。
「間違いないわ!どこの子なの?きっとカイルと一緒だわ!」

だがその警官は、アマンダに答える代わりに、トンプソンと二人っ切りで小さな声で、何かを話していた。

やがて、トンプソンが、アマンダとレニーに「お二人に来ていただきたい所があるのですが、、」と、言ってパトカーの後部座席のドアを開けた。

「一体、どういう事なんだ?捜索はどうなる?!」レニーは、少し警戒した。
トンプソンは、落ち着いていた。
「日暮れまで、捜索し続けます。それよりも、お二人に是非来ていただきたい所があるので、ご協力願います。」

アマンダは、捜索隊が入って行った森を眺めた。「レニー、あなた、行きましょう」レニーは、仕方なく妻に従ってパトカーに乗り込んだ。

大した距離もいかない所に、古びた小さな家が建っていた。

トンプソンは、その家の前にパトカーを止めた。
「この家にカイルがいるの?」アマンダは、後部座席から、トンプソンに言った。
トンプソンは、一瞬眉目にシワを寄せて言った。「しばらく、ここでお待ち下さい」
「いえ、一緒に行くわ!」アマンダは、もう外に出ていた。
レニーもアマンダの後を急いで追った。
「わかりました。ただ私が中の住人と話すまでは、私の後ろにいて下さい。いいですか?」
アマンダとレニーは、うなずいた。

トンプソンは、こざっぱりとした玄関のベルを押した。

カイルは、この家にいるに違いないわ!と、アマンダは確信していた。

玄関が開き、中から、老婦人がびっこを引きながら、出てきた。
「まあ!トンプソン保安官!久しぶりじゃない?さあ、入って、ちょうどお茶にしようと思っていたのよ。」

トンプソンは、気のいい警官のお馴染みの挨拶をしていた。そして、自分の携帯を取り出すと、写真を老婦人に見せた。
「まあ!息子のボブだわ。でも、子供の頃の写真よ?」
「息子さんはどこにお住まいですか?」
老婦人は笑った。
「主人を亡くして、あの子ここに戻って来てくれましてね。屋根裏部屋にいますけれど、呼んできますか?」
「ええ、是非ともお願いします」
「ボブ!お客様よ!」

老婦人は、息子の名前を呼んだ。
「何だい?母さん今忙しいのだけど?」
「パソコンがどうのこうのとか、最近の機械は分からなくてね、、」
「トンプソン保安官が、あなたの話を聞きたいといらしているのよ」

ドアの奥から、ドスドス音がして、背の高い男が出てきた。
写真の子供の面影があるが、今は立派な大人の男だった。

トンプソンは、写真を彼に見せた。
「やぁ、懐かしいなぁ!子供の頃家族で釣りをした時の写真ですよ。これがどうかしたのですか?」
「失礼ですが、お子さんは?」
「ええ、亡くなった女房との間に娘が一人います」

ボブは、「ちょっと待ってくれ、一体どうしたっていうんだ?一人娘はシカゴの大学の寮にいるが、、」
トンプソンは、当たり障りのないようにうわべだけ、アマンダとレニーの子供が行方不明になったことだけボブと母親に話した。
「行方不明になった母親が出会ったという男の子が、この写真の子に、そっくりだったそうです」
「分からないなぁ。。それは、確かに俺の子供の頃の写真だけど?」

「ご兄弟はいますか?」
ボブは、首を振った。
「一人っ子でね」
「そうですか、、」
トンプソンは、礼を言いアマンダ達の所に戻って来た。
「それで?どうなったのですか?」

ボブの娘クリスは、介護施設の受付の前に座っていた。面会者のサインをいつも通りにすると、目指す患者がいる部屋に入って行った。
「私よ。パパ」







0 件のコメント:

コメントを投稿