車椅子に乗っていた男が、首を曲げたまま、苦しそうにクリスの方を振り向いた。
そこには、父親のボブそっくりだが、様々な障害を負っている男がいた。
手や首を震わしながら、一生懸命口を開いて声を発しようと試みるも、曲がった口からは、「んぐっ、、ク、ク、リ、ス」と絞りとられるように発せられた。
クリスは彼の首に腕を回した。
「ええ、パパ、マイケル、私は元気よ。」
担当看護師が食事トレーを持って、部屋に入ってきた。
「今日は、よく散歩したのですよ」背が高くがっしりした看護師は、ニコッとクリスに微笑んだ。
「良かったわね、パパ、、」
クリスは、一瞬マイケルが笑ったように見えたが、顔の筋肉がひきつっただけかもしれなかった。
家の誰も、クリスがここに来ている事は、知らなかった。クリスは、いつも"友達と勉強している"と言っていた。
ほんの1年前まで、クリスは亡くなった母親から、本当の自分の父親がマイケルだと聞くまで、友達と買い物に行ったりしていた。
自分が無邪気だった日々が、あっという間に、過去のものになってしまった。
クリスは14才になっていた。
彼女が自分の本当の父親を見つけたのは、ほんの偶然だった。
13才の夏まで、クリス達は、ボブと母親のカレンと湖畔でキャンプするのが、通例だった。だが、13才のティーンには、親への関心がなく、嫌々ついて行かされた。
ある日、テントの裏で、両親がいさかいを起こしていた。クリスは、「またか」と、いつもの様に彼らの喧嘩が収まるのを待った。
しばらくすると、カレンがキャンプ用の椅子に腰掛け、泣き出した。
「ママ?大丈夫?」クリスは、心配になった。というのは、母親は、めったに涙を見せないからだ。
ボブがイライラしたように、カレンが握っている何かを彼女から取り上げようとした。
「そんな写真、捨てちまえ!かせ!燃やしてやる!」
「止めて!」カレンは必死に抵抗した。
が、しかし、合体が大男のボブに勝てるはずもなく、カレンはボブにぶっ飛ばされた。
クリスは、父親が母親に暴力を振るうのを初めて見た。
母親は地面にあった大きな石に頭をぶつけた。
「ママ!」どうしよう!カレンの頭から、見た事もない量の血がどくどくと出ていた。
「カレン!ああ、何て事だ!」ボブは、着ていたシャツを脱ぐと、カレンの頭の血が出ている箇所を押し付けた。
「クリス、押さえていてくれ!」
ここは、携帯の電波が届かないので、住民達は、無線を持っている。
ボブは、無線に向かって吠えるように、救急車を依頼した。